ネット経由で音が届く仕組み
この記事では、オンライン上での音質がよい環境をつくるにあたり、相手の耳に音声が届くまでの構造と、自分が改善できる部分はどこかについての説明を、皆さんへお伝えしたいと思います。
オススメのマイクの情報を先に知りたいという方は、こちらの記事へどうぞ。
オンライン上で「相手に声が届く」までに必要なこと
前回、【初めての方に】の記事では、主にマインドの部分の話をさせていただきました。
今回はより具体的に、インターネットを経由して相手に自分の声が届くというのが現実にはどういうことなのか、お話ししていきます。
そのために、まずは全体像を知るところから始めてみましょう。
オンラインにおける自分の声は、以下のようなルートを辿っていきます。(複雑なので、おおまかに10個くらいの関門があると思ってもらえたらいいです)
①自分が話す(体から声が出る)
②マイク(変換装置)が音を拾う
③信号に変換された音声がマイクケーブルを通る
④PCなどの機器を経由
⑤LANケーブルからルーターやONUを経由
⑥ONUから自宅を出て、世界中のどこかのサーバーを経由
⑦上記から相手の家までの回線を経由
⑧相手方ONUやルーターからLANケーブルを通る
⑨相手方のPCなどの機器で変換
⑩相手方スピーカーケーブルを経由
⑪相手方スピーカーから音声になって出る
⑫相手の耳に届く(最終的に脳に届く)
…このように、考えるのが嫌になるくらい色々な経路を一瞬にして通って、あなたの声が相手のもとに届いています。
相手がしゃべった場合も、同様の流れで自分のところに音がたどり着きます。
厳密にはもっと細かくできるのですが、とりあえず大まかな流れとしては上記のような形です。
いくつもの機材や回線を通った先で、電気信号が変換されて音として届く。
言われてみれば当たり前のことなのかもしれませんが、改めて考えてみるとけっこう複雑な要素で組み立てられています。
スマホなどの無線の電話で話したときに聞こえてくる声は、実は合成音声で本人そのままの声ではない――という話を、お聞きになったことはあるでしょうか。
詳しくは省略しますが、機械的な負担の都合により、通話者本人によく似た合成音声が通話の際には耳に届いていることになります。
だから、スマホなどの電話口で話した声は、実際の本人の声とはちょっと違うとお感じになっている人もあるかと思います。(ほとんど違和感を感じないレベルまで自然に行われていることは、科学技術の発展の恩恵ですね)。
インターネット経由でも、様々な変換がされることはあります。
その仕組みについてまでは述べませんが、音声データが届くにあたっては、私たちの想像以上に多くの機械を経由しているという事実があります。
つまり、こうした経路をたどる途中で、電気信号的に伝わるあなたの声が劣化してしまう場面が、いくつもあるのです。
それが、上記の②~⑪の間での出来事です。
スマホに限らず、オンライン上でもこうした機械的な変換作業を経由していることが、リアルに会うのとまた違った声の印象を相手に与える原因の一つと言えるでしょう。
私が「いい声」と評価してもらえたことがあるのは、私の声というよりも、「オンライン上では声が劣化した状態になってしまっている人が多いから、相対的に良く聴こえる」という要素が多いような気がしています。
では実際に音質を上げたいと思ったとき、自身の努力で変えられるところと、自分ではどうにもできない範囲との境界はどこまでになるのでしょうか。
その答えは、先ほどの流れでいうと①から⑤のところまで。
①自分が話す(体から声が出る)
②マイク(変換装置)が音を拾う
③信号に変換された音声がマイクケーブルを通る
④PCなどの機器を経由
⑤LANケーブルからルーターやONUを経由
この範囲であれば、皆さんはご自身の力(機材等を準備すること)で、相手への伝わり方を変えていくことが可能です。
この先の⑥と⑦は専門業者が関わるところで、⑧~⑫までは相手が行う部分です。
自分の準備で変えられる部分とは
さきほど挙げた①から⑤までを変えるとはどういうことか、具体的にお話ししてみたいと思います。
①自分が話す
自分自身の話し方というのは、
・声量
・話す速度
・マイクまでの距離
・話す中身
…などの、いわゆるコミュニケーションのスキルのような部分が、それに該当します。
コミュニケーションスキルといわれると、なんだか急にハードルが高くなるような印象があるかもしれません。
私もこの部分については専門家ではありませんので、そのアプローチ方法についてはお話しすることができません。
また、実際にここを変えるとなると、本などで知識を得て実践するか、どこかでスクールなどに通ってみたり…と、変化が定着するまでに一定程度の時間と費用が必要になってくる部分です。
ただし、この時点ではまだ、皆さんが話した声は「リアルな実声」そのままです。
いちばん鮮度がいい状態ですね。
②マイクが音を拾う
マイクは、空気中を伝わってきた音を電気信号に変換する装置です。
ここで一番最初の電気的な変換が行われます。
変換するにあたっては、マイクの仕組みとして
・ダイナミックマイク(振動版とコイルを利用して変換)
・コンデンサーマイク(コンデンサーの原理で電圧変化を利用して変換)
という2種類があります。
細かな説明は専門家の方におまかせするとして、機材の性能により変換の精度に差が生じそうなことは、イメージしていただけるかと思います。
マイクは集音機です。
話した音声を拾い集めて、電気の信号にして送り届けるためのスタート地点でもあります。
この時点で、音質にはけっこうな差が出ます。
ちょっと極端ですが、1000円未満のマイクと、2万円台のマイクの音で聞き比べてみましょう。
いかがでしたか?
どちらが1000円未満か、説明されなくてもわかるくらいにハッキリ差がでていると思います。
マイク選びだけでも、これだけの変化が出せるという事実です。
③マイクケーブルを通る
マイクで電気信号に変換された音声は、マイクケーブルを伝わってパソコンやスマホ、タブレットなどにつながっていきます。
無線のマイクの場合には、これが電波となって接続先の受信機に向かって飛んでいくことになります。
マイクからパソコンまで届くためには、途中でオーディオインターフェイスという機械が必要になる場合もあります(使っているマイクの種類によります)。
ケーブルの種類は、基本的にはマイクを購入した時点で(マイク側の接続端子との関係で)セットになっていると思いますので、マイク購入時にどういう接続方式をとるのか…で決まってくる部分でもあります。
変換ケーブルなどもあるようですが、とりあえず考えなくてもいいと思ってください。
ここでは詳しくは述べませんが、
・XLR端子
・フォーン端子
・USB端子
・ミニプラグ端子
などがあり、それぞれの端子に応じたケーブルがあります。
細かなことをこだわろうと想えば、ケーブル選びにもお金をかけることができます。
特に音楽鑑賞が趣味の方などでは、ケーブルについてもしっかりお金をかけている方もいらっしゃることと思います。
ただ、音楽の用途で用いるケーブルなどは、それ自体がけっこう高額なものがあります。
そして今回の、一般の方がお仕事に使っていくのに適した…という面からすると、効果の程度の判定も難しく、費用対効果という意味ではどこまで出す価値があるのかがわかりにくい…という点で、説明を省かせていただきます。
もし皆さんがこれからマイクや音響に詳しくなって、いつかもっと高音質を…!と求めるようになったら、また調べてみてください。
ちなみに私の耳程度では、1.5mで7000円くらいしたケーブルと買ったマイクの付属のケーブルとだと、マイク通話における音質の違いがよくわかりませんでした…笑
1つの勉強代として、今も手元に置いてあります。
④PCなどの機器を経由
ケーブルがパソコンに繋がると、基盤を経由してルーターやONUに向けて信号が送られます。
ここから先の電気信号の送信には、パソコン自体の処理能力と、インターネットの接続環境の影響が非常に強くなります。
特にパソコンを無線LANで接続している場合には、十分な電波強度で繋がれているかがポイントになります。
音声発信に関するパソコンの処理能力というのは、それだけをみれば高い要求をされることはありません。ですから、マイクで会話をする際の音質向上のためだけに高価なパソコンを買う必要はありません。
ただ、パソコンで色々な作業をしながらzoomなどで会話をしたい…といった使い方をするときに、処理が安定して行える程度のスペックかどうかが、考慮するポイントとなります。
余談ですが、マイクがキーボードなどのカチャカチャ音を拾ってしまうとか、そういうノイズに関する影響については、マイクの向きやキーボードとの距離、あとノイズキャンセルができるかのソフトウェア側の処理なども影響します。
これについては今回は省略させてもらいます。いつか別のところでお話しできたらと思います。
⑤LANケーブルからルーターやONUを経由
先ほどのパソコン経由からの続きになりますが、パソコンから電気信号が各ご家庭のルーターやONUといった機器に送られるところまでのお話をします。
インターネットの契約は、個人個人でインターネット契約をしているケースもあれば、マンションなどの集合住宅でネット接続無料…という物件などもあり、ネット環境というのは誰もが同じ条件で使えるわけではありません。
ただ、ネット接続が不安定でブツブツ切れてしまったりすると、音が割れてしまったり、回線が切れてしまうことがあります。
この場合に発生する音声の悪さやノイズの入り方というのは、どんなに高額で良いマイクを使っていようとも、防ぎようがありません。
これについては、次のような面を見直すことで変わる可能性があります。
・インターネットに無線接続で使っている方は電波が受信しやすい場所に移動したり、中継器を利用するなどして改善できる可能性があります。
・インターネットに有線接続している方は、お使いのLANケーブルが古い場合には新しいものに換えることで、通信速度が改善されることもあります。
※専門的な話になりますが、ケーブルの種類が基本的にはCAT.6以上の物を選択してください。ご自宅で古くから使っているケーブルの場合、最低でもCAT.5eでないと、それより古い場合には通信が満足に行えない可能性もあります。
LANケーブルについては、別途またご説明する記事を作る予定です。
・上記の対策で改善がみられない場合には、契約しているインターネット回線の見直しで変わる場合があります。
※ネット回線の説明は非常に複雑ですので、ここでの説明は割愛させていただきます。いずれご説明用の記事を作るかも…。
特にコンサルタントさんや営業さんなど、お仕事で話すことが重要な方の場合、ご自身のネット環境が不安定で接続が切れやすい状況を放置してしまうと、クライアントさんの心象にも影響しやすい状況を作ってしまいます。
音声の質…というよりは、ネット回線の安定の重要性に目を向けていただくのか、この項目になると思います。
自分の準備だけがすべて…ではないですが
相手に音声が届くまでには、まだまだたくさんの条件がありますが、自分自身がアプローチできることについてお話ししてきました。
ここまでお読みいただくだけでも、「思ったより面倒なことが多いんだな…」と、そう思われたかもしれません。
ですが、そんな面倒かもしれない情報についてここまでお読みくださったあなたは、ご自身の声がどう伝わるかに関心を強く持ってくださっている方だと思います。
メラビアンの法則といわれるものがあります。
人と人のコミュニケーションにおいて、人の行動が他人にどう影響雄するかを数値化したもので、印象の与え方の一端を表現したものになります。
この中で聴覚情報が占める量は38%で、視覚情報の55%に次ぐものになっています。
このメラビアンの法則における聴覚情報というのは、話している言葉(情報)の内容ではなく、声の大きさやトーン、声色などが影響する部分を表現しています。
そしてそれが、好意や反感などの感情や態度を表すコミュニケーションにおいて表現に矛盾が生じているとき、言語情報・聴覚情報・視覚情報の3つにおいて意味を優先して受け取る割合を示しています。
視覚の情報が不十分な場合には、聴覚が占める割合が多くなるということです。
個人的な印象として、オンラインでのやり取り・交流における聴覚情報が占める割合というのは、さらに大きくなるのではないかと感じています。
印象というのは、人が関わりを持つ上でも重要な要素の一つだと思います。
そしてそれが、自分自身の音声環境を整えることの価値ではないでしょうか。
これだけ変えても、届かないケースもあります
ここまでご自身の発信について細かく書いてきましたが、自分自身がしっかりと音声環境を整えたとしても、残念ながら相手側の機器(特にスピーカー)の性能やネット回線の状態によっては、音がしっかり伝わらないケースもあります。
どうして!?とお思いかもしれませんので、もう少し詳しくお話しします。
先ほどまで、ご自身の声が辿る電気的な経路でトラブルが生じる可能性をご説明しましたが、そうした劣化は何も自宅だけで起こることではありません。
当然のように、相手方の環境でも発生しています。
聞き手が使っているのが100均の安いイヤホンだったり、オンライン回線が不安定だったり…。
特に、相手方のスピーカー(電気音響変換機あるいは拡声器)が、音質について制限のある場合には、残念ながらこちらがマイクなど音声環境をしっかり準備しても、思うような効果が出ないケースがあると思います。
ただし相手の音響環境がよくないとしても、こちらから送り届ける音自体が悪い場合と良い場合で比べれは、やはりそれなりの差は感じられるはずです。
一方で、お相手の音声環境がしっかりしている場合には、想像以上に音質の差が伝わることがあります。
お仕事での会話というのは、歌や音楽を聴くほど高度な音声環境は必要としませんが、そういった機材がそろっている方というのも実際にいらっしゃいます。
そんなときに、ノイズが入ったりや音声ボリュームが不安定になったりと、そうした小さなストレスの積み重ねが相手に印象として与えるものがあるとしたら、どういう結果になっていくでしょうか。
マイクなどにかけるお金は、そういう面での変化を生むことができる可能性を、持っているのです。
はじめの頃に書きましたが、私はマイク選びについてある程度のこだわりをもって、最初からマイクにかけるお金は少し投資をしました。
その結果、私とオンラインで話した人からは、比較的好印象をもって頂けるケースが多くありました。
中には、「電話で話すと、いつもの声と違う感じがして気になってしまうので、ZOOMで話しましょう」と言ってくださる方もいらっしゃいました。
どんな声が心地よいかは、人によって好みも違うと思います。
ですが、あなたが持っている本来の声を、どこまで劣化が少ない状態でお相手の耳まで届けられるか。
それが、マイクやネット環境など、オンラインでの機器選びに投資する価値になると、私は考えています。
それでは次は、いよいよビジネス用マイク選びのポイントについて、詳しくお話をしていきたいと思います。
ネット環境のことで気になったという方は、こちらの記事もどうぞ。